山の音

 成瀬巳喜男作品。鎌倉に住む山村聡夫妻と息子の上原謙原節子の夫婦。上原謙がよく出来た原節子に辛く当たるものだから、原節子と彼女を慰める山村聡の間にただならぬムードがただよってしまうんです。
 一家には時々で戻ってくる娘がいて
 (お父さんは綺麗なものが好きで、顔がきれいな上原謙ばかり可愛がっていたを前ふりとして)
 「(旦那に)お前は親に可愛がられていないから性格がいじけてんだ! と言われて言い返せなかった」(大意)
というセリフが受けた。
 この作品の山村聡、「山猫」のバート・ランカスターには及ばぬまでも、「傷だらけの山河」の山村聡よりもエゴイストだと思った。
 特に印象に残ったシーンは四つ。初めて山村聡原節子が同じフレームに収まるシーン。つまり会社帰りの山村聡を後から自転車の原節子が迫ってくるシーン。ラストの枯れた並木を背景とした別れのシーン。事務員に能面を被らすシーン。停電の夜、蝋燭を接木する山村聡のシーンだった。