西部劇オタが非オタの彼女に西部劇世界を軽く紹介するための10本
まあ、どのくらいの数の西部劇オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、
その上で全く知らないアニメの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、西部劇のことを紹介するために
見せるべき10本を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に西部劇を布教するのではなく
相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、非アメリカ映画は避けたい。
せめて外国人監督によるものにとどめたい。
あと、いくら西部劇的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
アメコミ好きがゴールデンエイジ作品は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は
西部劇映画知識はいわゆる「ニューシネマ以降」的なものを除けば、ジャンゴ程度は見ている
サブカル度も低いが、頭はけっこう良い
という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。
駅馬車(ジョン・フォード監督)
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、日本における「戦前の西部劇」を濃縮しきっていて、「戦後の西部劇」を決定づけたという点では
外せないんだよなあ。スタントも革命的だったし。
ただ、ここで西部トーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この情報過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に
伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
真昼の決闘(フレッド・ジンネマン監督)、許されざる者(クリント・イーストウッド監督)
アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな西部劇(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの
という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには
一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「西部劇オタとしてはこの二つは“映画”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
ヴェラクルス(ロバート・アルドリッチ監督)
ある種の西部劇オタが持ってるメキシコへの憧憬と、のフランスのメキシコ干渉を
彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもロバート・アルドリッチな
「童貞的なださカッコよさ」を体現するバート・ランカスター
「童貞のまま枯れた感じ」を体現するゲーリー・クーパー
の二人をはじめとして、オタ好きのするキャラを世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。
スパイクス・ギャング(リチャード・フライシャー監督)
たぶんこれを見た彼女は「ドジっ子メガネ萌えだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この系譜の作品がその後続いていないこと、アメリカの西部劇の衰退がとまらなかったこと、
アメリカなら実写テレビドラマになって、それが日本に輸入されてもおかしくはなさそうな「頑固爺さん孫三人」な図式なのに、
ああいう展開にしてしまい観客を裏切ったこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。
「やっぱり西部は伝説だよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「リバティ・パランスを撃った男」
でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける主演・プロデューサーのブラピの思いが好きだから。
自分が殺されるために削らずに2時間40分、っていう尺が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、
その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
この長さを俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが
シーゲルやスタージェスだったらきっちり1時間40分にしてしまうだろうとも思う。
なのに、スターの威光で押し切って2時間40分を作ってしまう、というあたり、どうしても
「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえブラピがそういうキャラでなかったとしても、
親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。
リオ・ロボ(ハワード・ホークス監督)
今の若年層でホークス見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
45年キャリアよりも最後の段階で、人を食った列車強盗の技法とかはこの作品でも全く衰えていないとも言えて、
こういうクオリティの作品が70年代にかかっていたんだよ、というのは、
別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく西部劇好きとしては不思議に誇らしいし、
いわゆるスクリューボール・コメディでしかホークスを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。
レオーネの「目」もとのアップ、あるいは「絵づくり」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「夢の国アメリカ」的な感覚が映画オタには共通してあるのかなということを感じていて、
だからこそ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』ラストはビューティフル・ドリーマーでしかあり得なかったとも思う。
「夢の国アメリカ」というオタの感覚が今日失われているのなら、その「オタクの気分」の
源はこの映画の二人の死にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、
単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。
許されざる者(ジョン・ヒューストン監督)
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
オードリー主演作をこういうかたちで仕上げて、それが一般人に受け入れられるか
気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。
ワイルド・バンチ(サム・ペキンパー監督)
9本まではあっさり決まったんだけど10本目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にペキンパーを選んだ。
フォードから始まってペキンパーで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、西部最後の強盗団をテーマと
している作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10本目はこんなのどうよ、というのがあったら
教えてください。
「駄目だこの東部訛りは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。