汗(カーン)の栄光 その2 今度はマジメに見てきた

 フィルムセンターのブルガリア映画特集にて

(95分・35mm・カラー)

7世紀に建国されたブルガリア王国の成立過程を描いた史劇。ブルガリア映画としては破格の製作費を投じ、観客動員記録を更新した。建国の立役者となったアスパルは、史上最も有名なブルガール統治者である。

’81(監)リュドミール・スタイコフ(脚)ヴェラ・ムタフチエヴァ(撮)ボリス・ヤナキエフ(音)シメオン・ピロンコフ(出)ストイコ・ペエフ、アントニー・ゲノフ、ヴァシル・ミハイロフ、ストイチョ・マズガロフ

 まあこう出られちゃうと、気楽に観るには重すぎる感じがする。しかし95分のタイトな上映時間(と思ったら短縮版なことが判明)が不安を打ち消す。

 まずは、ドナウ川と、馬の群をバックに、時代背景-7世紀、東ローマ帝国は地中海方面でアラブ(ウマイヤ朝)と物語の舞台となる東欧では騎馬民族ハザール人と抗争中-と語られる。
 ここまではまあこういった映画にふさわしい、あるいはありがちな出だしだった。次に騎馬民族が平和な村を襲撃、中々(『デモンズ3』位は)迫力があると思っていたら、レイプシーンに突入、しかもおっぱい見せてる。公開当時のブルガリア中学生には『おっぱいバレー』なみに有難かったことだろう!
 で、ローマは対ハザール策として、当時周辺諸部族(こちらも騎馬民族)を纏めて勢力を誇ったクブラト・ハンに助勢を求める。この時、映画の語り部となるローマ人ヴェルサリスが人質としてブルガールに留め置かれる。
 そしてヴェルサリスはクブラトの四男アスパルとと友情を育む、と同時にブルガール人の風習が説明される。土着信仰とか、女性も馬に乗り、弓を射るとか。
 そしてハザールとの開戦するが、あっさり敗北。クブラトは土着信仰とは別口の巫女のお告げに従い、4人の子供にそれぞれ部族を率いての別行動を指示。ここでアスパルが想定外にもハーンになる。
 アスパルとヴェルサリス達はハザール人と戦いながらドナウ川周辺をさまよう。この頃アスパルは件の巫女との結婚を望むが、司祭(マカロニの悪役の人)の陰謀によって彼女は殺され、司祭の娘との結婚を余儀なくされる。
 その後ヴェルサリスも伴侶(巫女の妹)を得、事態は小康状態かに見える。だが不安定さを見越したアスパルは豊かなローマ領への越境を試みるも、司祭達の反対により断念。ところがこの年の冬が厳冬で、アスパル、ヴェルサリスは妻子を失う。
 堪忍袋の緒が切れたアスパルは司祭を粛清、ローマ領に進攻、現地のスラブ人とも同盟し要塞を築いて備えを固める。
 これに対し、皇帝親征でローマ帝国は臨む。このローマ軍が設定上の数5万を本当に動員してるんじゃないかと思うくらい数を出している。士官の中に黒人を入れてるのもニクイ。
 激戦の末、アスパルはローマ軍を退ける。そして役目を終えた……と感じたヴェルサリスはローマに帰国する……。 

 見た後、確かにこれはヒットすると思った。エロ、主要女性登場人物(巫女姉妹、アスパルの妻)が全て胸は見せてくれる。グロも戦後の死体の山を出してぬかりは無い。さらにブルガール人の風習をモンド映画的にとっているのもいいだろう。
 特に合戦が工夫が凝らしている。
 ブルガール対ハザールの騎馬戦。ローマとの対戦では、まずローマ攻撃、ブルガール守備の城攻めから始まり、隠し門から出撃した騎馬隊+城外の伏兵とローマ歩兵隊の戦い。この時ブルガール騎兵が、本当に騎射したり、待ち伏せのために寝かせておいた馬を立たせて、そのまま飛び乗るなど素晴らしいアクションがある。もし20年程前に造られていたなら、ウェスタンのスタントとしてお呼びが掛かったに違いない。
 そして映画のテンポを悪くしそうなことをバッサリ切ってある。アスパルの兄達の行く末や、語り部のローマ人が故国と対決する心理的葛藤などだ。特にこの手の設定にありがちな、土着信仰の司祭を悪役にして、キリスト教の素晴らしさを説くというのをやっていないのは特筆に価する。
 3日にもう一度上映するそうだが、彩プロさんあたりがDVD出してくれないかなあ。