最前線

 アテネ・フランセの『B級ノワール論−ハリウッド転換期の巨匠たち』出版記念上映会にて、アンソニー・マン監督。
 アメコミ調の米兵のイラストによるOPを経た後、疲れきった様子の米兵達から話は始まる(ただし顔が汚れていないのは減点対象)。
 朝鮮戦争中重囲に陥った米軍小隊−十七名、小隊長の中尉は健在なれど下士官一名、古参兵二名の十七名だけ。重火器はあるが車両、衛生兵なし−は突破を試みる。すると突如快調に飛ばすジープが行く手に現れる。乗っていたのは爆発のショックで茫然自失になっている大佐と、かいがいしく彼の世話をするヴェテランの軍曹「モンタナ」だった。ジープ目当て(重火器などの輸送のため)で、軍曹を強引に指揮下に置き、本格的に話が始まった。
 
 厭戦ムードに満ちた作品で「アメリカの戦争映画は単純で」という言説を百年、つまり向こう五十年くらい封じれるくらいの力がある。
 全体的な印象は黒沢明+カーペンター÷2という感じだ。まず絵作りに黒沢明のような端正さがある。「虎の尾を踏む男たち」のような林や、「乱」のような煙。飛行機も戦車も出てこない、下手したら「コンバット」一話分以下の予算で、ここまで完成度の高い絵を撮ってしまう力量は素晴らしい。
 カーペンター分はモンタナのキャラクターである。ひたすら強いのは勿論、大佐と自分以外、何も信じず、リスペクトしない。スタイルはあるがモラルは無いといったところは、後年のカーペンター(アンチ)ヒーローそのものである。何と言ってもモンタナという名がニックネームというのがダメ押しだ。
 後、「遊星からの物体X」の構図そっくりのものがラスト近くにあったりもする。