「トウキョウソナタ」

 試写があたってくれた!!!
 黒沢清最新作にして集大成的作品。
 曇天のもと、決して胸を張らないディスコミュニケーションの物語。
 「叫」のように荒廃した公園に警察署と階段落ち。「アカルイミライ」のクラゲのように川面に舞うポケットティッシュ。若者と9.11後のアメリカ。「LOFT」の安達祐美みたいに、物のように縛られる小泉今日子。「悪魔のいけにえ」のように閉じられたらダメ! な扉。

 監督の「女優が綺麗にとる方法がわからない、ゴダールはずるくては本当に綺麗な女優を使っている」という分析に基づく井川遥の起用。
 ビニールカーテンの代わりにブラインドとスリガラス。ダンボールを使ったアクション。男と女の強盗と自動車(異空間)そして行き着く先は当然海(この夜の海だけでも劇場で見る価値あり)! ラストシーンはセリフではなく画面で見せる、ベタかもしれないけど完璧な造り。家族全員に死と再生の儀式は行われる。
 黒沢印の刻まれた作品にも関わらず、笑いどころでは客席からきっちり笑いがおきる通俗性が両立しているのを見て涙が出そうになった。カンヌがグランプリでは無く、「ある視点部門」でお茶を濁したのが間違いとしか思えない(システム的なことはさておきさ)。
 次男役の井之脇海(撮影後、十数センチ背が伸びた上に声変わりもして、ほとんど別人)と、彼のピアノのスタント、高尾奏之介の舞台挨拶+生演奏つき(耳が肥えてないのでうまい、としか書けないのが悔しい)。
 司会の人が二人から「(スタントを通して)一つになれた気がしました」とある種の皆さんが大喜びしそうなセリフを引き出す。とは言え私はその種の皆さんではないのであんまり嬉しくない。